<はじめに>
近年のコンピュ−タ技術や通信システムの進歩、あるいは社会的ニ−ズの増大に伴い、かっては夢のように考えられていた遠隔医療が今や現実のものになりつつある1)2)。しかしその具体的な方法についてはまだ模索中の施設も少なくないと思われる。本稿では、遠隔医療の現況と展望について、われわれの経験も含めて報告し、一般医家の参考に供したい。
<遠隔医療とは>
遠隔医療とは一般に映像を中心とした通信手段を用い、遠隔地において診断、医療支援を行うことをいう。英語のテレメディシン(telemedicine)とはtele(遠隔)とmedicine(医療)の合成語である。
本邦では医師法20条(無診察診療の禁止)との兼ね合いが従来問題とされてきたが、平成8年3月に政府の規制緩和対象項目に指定されたことより、遠隔医療への期待が最近高まってきている。現在、関係省庁で医師法等との関係の見直しや、診療報酬上の位置付けの明確化が議論されている3)。
遠隔医療は、医療の地域格差の縮小や、専門医不足の解決法として、あるいは在宅医療等の手段として期待されている。
<遠隔医療の歴史>
アメリカではすでに1968年より、Massachusetts General Hospital(MGH)と、近郊の医療センタ−間でテレビ回線による医療コンサルティングが開始され、その後医療の孤立地帯を対象とした通信衛星利用の遠隔医療が実施されている。
本邦では、1971年和歌山県医師会が僻地対象にCATVで遠隔医療実験したのが最初で、その後1974年に長崎大学により病院間のteleconferanceが実施された。そして1981年には沖縄県で、離島間および沖縄本島との間でNTT回線により静止画像、心電図等を伝送するシステムが構築され、臨床使用されている4)。
最近は東海大学等による通信衛星を使用した発展途上国の医療支援5)、地方の病理医不足を解消する目的での遠隔病理診断(telepathology)、あるいは在宅医療への応用等が特に注目されている6)。
<遠隔医療の目的>
一般的にわれわれが国内で遠隔医療を実施する目的としては、遠隔地の医師に対する医療支援(診断治療のアドバイス)、在宅医療等が考えられる。医療支援にも種々のケ−スが想定されるが、代表的なものとして山間僻地や離島の様な過疎地域に対する一般診療の支援(テレカンファランス等)、あるいは地方都市の一般病院と大都市の基幹病院とを結ぶ専門医療の支援等が考えられる。後者の場合はCT、MRI等を一緒に読影して(teleradiology)脳外科の手術適応を検討したり、術中病理標本を伝送して病理専門医の診断を求める場合等の利用が想定される。
一方、在宅医療目的では、寝たきり老人の状態をテレビ動画像である程度把握し、介護方法を付き添いの家人やヘルパ−等に指示したりすることが考えられる。また血圧、心電図、体温、呼吸数、酸素飽和度等の医療デ−タを自動的に計測し、伝送するシステムも考案されている。
厚生省が組織している遠隔医療の研究班は全国における遠隔医療の事例を集積しており(このインタ−ネットホ−ムペ−ジのURLはhttp://square.umin.u-tokyo.ac.jp/enkaku/)、表1はこの研究班が集計した本邦における遠隔医療の事例数を示す。今年4月現在で、総計192件が把握されており、目的として最も多いのはテレラジオロジ−、次いで在宅医療・ケア、テレパソロジ−、医用画像一般の順である。
本邦における遠隔医療の事例
| 分類 | 進行中(含む休止中) | 未確認 | 実験終了 | 計 |
|---|---|---|---|---|
| テレパソロジ- | 16 | 1 | 6 | 23 |
| テレラジオロジ- | 65 | 10 | 13 | 88 |
| 眼科的領域 | 5 | 0 | 0 | 5 |
| 歯科的領域 | 3 | 0 | 0 | 3 |
| 医用画像一般 | 19 | 2 | 2 | 23 |
| 在宅医療・ケア | 19 | 2 | 12 | 33 |
| その他 | 4 | 3 | 10 | 17 |
| 計 | 131 | 18 | 43 | 192 |
<遠隔医療の方法>
遠隔医療は、目的や、相手までの距離、カバ−する地域の広さ等によって、非常に高額なシステムからごく簡便なシステムまでいろいろな方法が考案されている。ここでは現時点で使用可能な方法について通信手段別に詳述したい。
1)インタ−ネット利用
インタ−ネットを利用して遠隔医療を試みる場合、現段階で最も実用的な方法はコ−ネル大学が開発したEnhanced CU-SeeMee(以下CU-SeeMee)というテレビ会議システム(小型ビデオカメラ込みで3万円前後と安価)を使用することである。本システムはアナログ電話回線(通常28.8Kbps)、ISDN回線(通常64Kbps)のいずれでも実施可能であり、モデムカ−ド等を装着したノ−トパソコンを利用することもできる。
このシステムの場合、CCDカメラによる動画像は3,4フレ−ム/秒前後とややスム−ズさに欠け、解像度もあまり高くない。一方コラボレ−ション(共同作業)用の White board は、各種医用静止画像を送信共有し、リアルタイムで異常病変を図示したり、書き込むのに有用である。ただし、インタ−ネットはパケット通信(1本の回線を複数の利用者が共有する)であるため、回線の混雑状況によって、伝送時間が異なったり(100KB前後のデ−タで2,30秒〜2,3分)、セキュリティに若干の問題が残る2)。
このシステムの場合、快適なコラボレ−ションのためには画像デ−タを数100KB以下、できれば200KB以下にし、かつ音声用に別の電話を使用した方がよい(図1)。なおリフレクタを介して多数を相手に会議することも可能である。

2)ISDN回線による方法
ISDN回線を通じて、二者間(多数間でも可)でテレビ会議を行うシステムにはピクチャテル、フェニックスなど多数が市販されている。われわれのピクチャテル(PCS 50)による実験ではCU-SeeMeeに比し、CCD動画像はスム−ス(15フレ−ム/秒)かつ鮮明であり、コラボレ−ション用の LIVE Share(アプリケ−ションソフトの共有)あるいは White boardによる静止画の伝送も日による変動が少なく、かつ比較的速い(100KB前後で常に30数秒以下、図2)。
音声の同時使用やセキュリティの点でも何ら問題はない。相手方も含めISDNの設置(および使用料)が必要で、CU-SeeMeeよりやや高価ではあるが今後はこの方法が主流になると考えられる。われわれは、CCDカメラの端子にビデオ信号を入力することで動画の医用画像の伝送も可能なことを確認している。
なおこの汎用型のテレビ会議システムよりさらに高価ではあるが、ISDNを使用する遠隔医療専用のシステムもいくつか市販されている。

3)光ファイバ−、ケ−ブルTV回線による方法
光ファイバ−はMbpsの単位で情報量を送信することが可能で、上記のISDN回線の数10倍以上の伝送能力を有する。そのため、通常のTV映画と同程度の高画質動画像や、病理の顕微鏡診断に耐えうる超高精細画像を送ることが可能である。山内らの実験(NTTマルチメディア通信共同利用実験)では156Mbpsあるいは6Mbpsの高速デジタル回線を使用すれば、テレビ会議システムとの併用も無理なく行うことができ、放射線画像(CT、MRI等)の診断やコンサルテ−ション、あるいは血管造影手技を用いた観血的治療手技の支援等に有用であった1)。ただし欠点としては、専用の光ファイバ−を長距離敷設するために莫大なコストがかかることがあげられる。
一例として30km離れた東京都中央区築地の国立がんセンタ−(中央)と千葉県柏市の国立がんセンタ−(東)との間には6Mbps光ファイバ−専用線が接続されている。テレカンファランス、テレパソロジ−、テレラジオロジ−システムが導入され、両病院間でハイビジョン画像による通信が行われている7)8)。
一方、ケ−ブルTV回線は主として光ファイバ−が使用されており、比較的狭い地域で、かつケ−ブルTVが普及している地方では、これを利用した遠隔医療は有用と考えられる。現在、淡路島の五色町などがこのケ−ブルTVを在宅医療に用いるモデル実験を行っている。
4)通信衛星による方法
従来のアナログ通信衛星の使用はコスト負担が大きく、実用的ではなかった。しかし、最近のデジタル衛星通信の進歩により、通信衛星による遠隔医療が日常的に可能になりつつある。現在、大学病院衛星医療情報ネットワ−ク、発展途上国や国内の離島、僻地に対する医療支援等が試みられている。このデジタル衛星通信による方法は回線敷設が不要のため導入コストが比較的安い。さらに高田ら9)はこの方法の利点として、一般のISDN128Kbps回線として種々の通信プロトコルが利用でき、セキュリティも地上より一般に優れ、移動が容易なポ−タブルパラボラアンテナを使用すれば、大災害時の医療支援等にも最適なことなどをあげている。
<遠隔医療の実際と今後の展望>
遠隔医療は今まさに幕が切って落とされようとしている。特に診療報酬上の取り扱いが明確になった時点で、導入を検討する医療機関が少なくないと思われる。遠隔医療の方法は千差万別であるが、ここでは現時点で医療機関で使用しうるシステムについて、目的別に将来像とともに述べ、遠隔医療導入の指針としたい。
まず、個人診療所レベルでホワイトボ−ドによる静止画像中心の紹介程度の医療連携を行うにはインタ−ネット(CU-SeeMee等)使用が最も簡便である。ただし、動画像目的には現状では不十分で、今後さらにソフト、ハ−ド、通信環境等の改良が期待される。
一般病医院間で遠隔医療(テレカンファレンス、一般医用画像の伝送、テレラジオロジ−等)を行うには、相手とISDNで接続するテレビ会議システムが最適と思われる。CCD動画像の画質、音質、コラボレ−ション機能のいずれも、ほぼ日常的に遠隔医療が可能な水準に達している。この方法はISDN設置が必要ではあるものの、在宅医療等にも十分実用になると考えられる。
基幹病院が遠隔地の医療機関と結んで、高度(専門的)な遠隔医療(超高精細画像によるテレパソロジ−やテレラジオロジ−、あるいは高画質の動画伝送、動画のコラボレ−ション等)を常時行うには、光ファイバ−等による専用線接続が理想的である。またケ−ブルTVが普及している地域では、これによる遠隔医療(特に高画質の動画による在宅医療)も有望と思われる。
僻地医療や、災害医療等を目的とした遠隔医療にはデジタル衛星通信が今後有望と思われる。現時点ではまだ一般的ではないが、山間僻地や離島を多くかかえ、地震等の大災害が少なくないわが国では、この方法は今後十分検討に値すると思われる。
<まとめ>
本稿では最近注目されている遠隔医療の現況と今後の展望について、われわれの経験も含めて平易に解説した。この分野は日進月歩で、かつ奥が深いものがある。本稿を機に臨床の各先生がこの分野に関心を持っていただければ望外の喜びである。
<謝辞>
名大医療情報部徐知行先生のご協力に感謝します。
<文献>
1)山内一信:遠隔医療の現実と可能性.新医療267:33-36,1997
2)河合直樹、山内一信:インタ−ネットによる病診連携の試み.簡易型テレビ会議の利用.(日本医事新報掲載予定)
3)上田博三:情報システムと法制度.全国医療情報システム連絡協議会.第13回定例会議論文集:20-22,1996
4)中島功:衛星を用いた画像診断へのアプロ−チ.Healthcare Information World 97 論文集S9,1997
5)中島功:衛星通信と医療.電子情報通信学会誌79:409-413,1996
6)芦原司:わが国における遠隔医療の実際と今後の展開.Healthcare Information World 97 論文集S15,1997
7)水島洋:医療従事者のためのインタ−ネット活用法.Healthcare Information World 97 論文集S11,1997
8)関口隆三、他:インタ−ネット時代の医用画像.新医療267:37-39,1997
9)高田孝広、他:通信衛星を用いたデジタル画像伝送を含む地域医療ネットワ−ク.第1回遠隔医療研究会論文集:115-116,1997