【要旨】
全国の医師会情報ネットワ−クの構築状況についてメ−リングリスト(ML)等を用いてアンケ−ト調査した。イントラネットあるいはMLで医師会情報ネットワ−クを構築している医師会は計50、加入者総数は6095名、イントラネットを構築している医師会の平均の普及率は33.9%であった。イントラネット構築費用は構築方法によりかなり差があり、各医師会の目的や実情にあった情報ネットワ−クの構築が望ましいと思われた。
【キ−ワ−ド】医師会、イントラネット、メ−リングリスト
【はじめに】
1990年代に入ってインタ−ネットの個人利用が可能になり、WWW(World Wide Web)等のソフトが開発されるに及んで、インタ−ネットは世界中のあらゆる分野で急速に普及しつつあり、これは医学・医療の世界でも例外ではない。一方で医療現場においては昨今、病診・診診・病病連携、保健医療福祉連携、医療の効率化、情報開示等が強く求められている。
このような情報ネットワ−クの普及と医療における必要性の増加に伴って、最近インタ−ネット、イントラネット技術を用いた医師会情報ネットワ−クの構築が各地で始まっている。しかし、特にイントラネットについては閉鎖ネットワ−クであるが故にまだ全国の現状が十分に把握されているとは言い難い。
このため、われわれはメ−リングリスト(以下ML)を利用して全国の医師会情報ネットワ−クの構築状況についてアンケ−ト調査をしたので報告する。
【対象と方法】
アンケ−トの対象は全国の医師、医師会事務職員等500数十名が登録されているメ−リングリストであるhimedaruma ML(ひめだるまメーリングリスト)のメンバ−を中心とし、これに既に医師会情報ネットワ−クが構築されていると思われる医師会の事務局も加えた。
表1に示す〔1〕から〔20〕までの20項目からなるアンケ−トを1999年9月15日に同MLを通じ(一部は個別に)電子メ−ル(以下Eメ−ル)で発信し、9月25日までに同じくEメ−ルでアンケ−トを回収した。
なお今回イントラネットの定義としては原則としてTCP/IPプロトコルに準拠した閉鎖ネットワ−クで、会員がサ−バ−へアクセスするためのアクセス回線を有し、かつEメ−ル、イントラネット内のホ−ムペ−ジあるいは掲示板等を運用しているものとしたが[1]、これにほぼ準じたシステムも集計した。一方従来のいわゆるパソコン通信(BBS)によるシステムは除外した。
またイントラネットは構築していないが医師会としてMLを運用しているというケ−スについてもアンケ−ト項目を限定(第1〜8項目)して記入していただき、回収した。
【結果】
1.医師会情報ネットワ−クの分類と加入者数
医師会の情報ネットワ−クとしてイントラネットを構築していると回答のあった医師会は24医師会で、それらのイントラネットの加入者合計は4620名であった。これらの医師会の存在する都道府県を図示すると図1のようになり、北海道を除いた東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州の全国各地方に存在していることがわかった[1][2]。
次にこれらの24医師会を、アンケ−ト項目の〔6〕サ−バ−の設置場所、〔5〕入会対象者等を考慮してA)からD)の4群に分類した上で、〔1〕名称、〔2〕母体の医師会名、〔3〕開設年月、〔4〕加入者数について各群の開設順に一覧表にした(表2)。
このうちA)医師会館にサ−バ−を設置しイントラネットを構築運用している医師会は試行中のものも含めて16医師会であり、このうち3医師会はイントラネットのみで、残りの13医師会のイントラネットはインタ−ネット接続がされていた。また最も早く構築した医師会は1995年10月に開設した愛媛県医師会であり[3][4]、入会者数の最も多い医師会は入会者801名の愛知県医師会であった。
一方、B)医師会館以外にもサ−バ−を設置運用したり、C)医師会以外のメンバ−も含めた地域保健医療ネットワ−クとして運用しているものが5医師会あった。B),C)の場合、サ−バ−の設置場所としては保健医療情報センタ−、大学医学部、私立病院など様々であった。またD)これらの方法とは別の方法で運用している医師会(例えば医師会臨床検査センタ−のデ−タ閲覧システムを利用するなどして)が3医師会あった。なお入会対象者はC)以外では医師会員、医師会事務職員という回答がほとんどであった。
これに対してイントラネットは構築していないが、インタ−ネットMLを組織しているという回答が26の医師会からあり、その加入者は1475名であった(表3)。
以上、イントラネット構築あるいはインタ−ネットMLの組織により医師会情報ネットワ−クを構築していると回答のあった医師会は計50医師会でその加入者総数は6095名であった(図1)。
2.イントラネットに関するその他の回答について
イントラネットを構築しているA)〜C)群の21医師会についてさらに他のアンケ−ト項目の回答結果を解析した。
〔7〕医療機関ベ−スでの普及率は2〜84%、平均±標準偏差は33.9±25.1%であった。〔8〕管理者についてはいずれのネットワ−クでも医師会員(医師会長、担当理事を含む)または医師会事務職員であった。〔9〕構築担当者は業者13件、会員12件、職員9件であった(重複を含めた延べとして)。また〔10〕メンテナンス担当者は延べで職員14件、業者11件、会員9件であった。
〔11〕OS(基本ソフト)の種類としてはNT10件、Mac1件、UNIX16件であり(重複例あり)、UNIXの内訳としては商用としてSolaris9件、その他1件、フリ−としてLinux4件、Free BSD2件であった。
〔12〕インタ−ネット専用線としてはOCNエコノミ−9件、民間プロバイダ5件、その他4件、接続無し4件であった。〔13〕アクセス回線数としては9回線以下が12件、10〜19回線が2件、20〜29回線が2件、30回線以上が3件、不明2件であった。
〔14〕提供されているサ−ビスとしてはほぼ全てのネットワ−クでWWW(内向きに加えインタ−ネット接続されているシステムの多くでは外向きも)とEメ−ルが提供されていたが、さらにデ−タベ−スその他のサ−ビスが加わっているシステムもあった[5]。
なお〔15〕日医ドメインのmed.or.jpを冠したメ−ルアドレスの発行については実施済みが14、未実施が7であった。
〔16〕の概略の構築費用については、構築方法によって、内部構築(会員または医師会事務職員が構築、8医師会)、外部構築(業者への外部委託構築、7医師会)、あるいはその両者の併用(5医師会)の3つのグル−プに分けて検討した(費用不明が1医師会)。また今回のアンケ−トで得られた金額は実際の金額ではなく、群分けした金額であったため、便宜上、1)は0円以上、2)は300万円以上、3)は500万円以上、4)は700万円以上、5)は1000万円以上、6)は1500万円以上、7)は2000万円以上、8)は3000万円以上とし、各構築グル−プにおけるこれらの最低金額の平均値±標準偏差を構築費用のおおよその目安として求めた。
その結果、構築費用は内部構築群212.5±188.5万円以上、併用群700±771.4万円以上、外部構築群1714.3±1258.9万円以上であり、内部構築群と外部構築群との間には危険率1%未満で有意差が認められた。
アンケ−ト項目〔17〕〜〔20〕については回答の重複が少なからずみられたため、医師会イントラネット構築のメリット、デメリットとして整理し直し表4に示した。なおイントラネット構築のデメリットについては特に無しとする回答も少なくなかった。
【考案】
かって医師会内部の情報ネットワ−クとしてよく用いられたパソコン通信(BBS)は文字情報しか扱えず、画像や音声情報を扱うことができないという限界があるため現在はあまり利用されなくなってきている。これに代わって、1990年代に入ってインタ−ネット、次いでこの技術を応用したイントラネットが医師会情報ネットワ−クに利用されるようになってきた[6][7]。
インタ−ネットは広範囲かつ遠方の外部の相手への情報発信に有用であり、これを利用した医師会ホ−ムペ−ジは既に43都道府県医師会と295郡市区医師会の計338医師会で開設されている(1999年11月現在)。またインタ−ネットのもう1つの主要なサ−ビスであるEメ−ルについては、個人間のメ−ルの他に、あらかじめ登録したメンバ−に一斉にメ−ルを送信するメ−リングリストという方法が情報ネットワ−クによく用いられており、極めて安価に組織できることから今回のアンケ−トでもイントラネット構築に至らない医師会でもMLを組織している医師会はかなり多数に上った。なおこの医師会MLについては民間プロバイダ等のメ−リングリストサ−ビスを利用すれば簡便に組織できるため、今回把握した医師会以外にもまだあることが考えられる。
これに対してインタ−ネット技術を応用したイントラネットは医師会内部の情報交換に有用であり、最近各地の医師会で構築が試みられている。しかし閉鎖ネットワ−クであるが故に外部からその存在を認識することは困難で、今まで詳しい状況を把握することが困難であった。今回、多数の医師、医師会事務職員が加入しているMLを利用して、この現状に関するアンケ−ト調査を試みた。今回のアンケ−ト対象は全国全ての医師会を網羅しているわけではないため、100%正確というわけではないが、全国でイントラネットを構築している医師会と、そのイントラネットのおおよその加入者数、および構築運用の現状をある程度把握できたと思われる。
今回のアンケ−トで特に目についたこととして、普及率が2〜84%とかなり幅があり、かつ平均普及率が33.9%であったこと、構築やメンテナンスにおける会員や医師会事務職員の関与が大きいことなどがあり、これらはイントラネットがボランティアを主体に構築、運用されている医師会が少なくなく、普及もまだ初期段階にあることを反映しているように思われる。なおイントラネットといえども内部での情報のやりとりだけではなく、インタ−ネットと接続して外部との情報のやりとりも合わせて行っている医師会が予想以上に多かった。
イントラネットの構築費用については、今回構築が内部構築か、外部構築か、併用かに分けて検討した。ただしイントラネットの構築方法は千差万別であり、今回の対象に含まれている外部構築システムには患者個人情報を扱うための個人認証システム等を有する高度なシステムが2、3含まれていたことは考慮する必要がある。またイントラネットの構築に際しては、インタ−ネット接続するかどうかや使用機材等によって価格が大きく異なること、また機材は1、2年で価格が低下する傾向にあるため同じ機材でも開設時期により価格が異なるなど、多くの複雑な要素が関係するため一律に構築費用を比較することは難しいと考えられた。また今回のアンケ−トでは正確な金額の記入は求めなかったため、金額についてはおおよその目安にしかならないと思われるが、内部構築と外部構築でかなり費用に差があることは推察された。
イントラネット構築で得られるメリットとしては迅速な情報伝達[8]や会員間のコミニュケ−ションの向上にとどまらず、患者情報の共有、病診連携等が上げられていたが[5][9]、一方でデメリットに関する回答も少なくなかった。構築、運用をボランティア中心にすればこれら担当者の負担が大きく、一方完全に外部委託で構築、運用すれば費用負担が大きいというジレンマがあり、専門知識を持ったボランティアも予算も期待できない医師会ではイントラネットの構築は容易ではないと考えられる。しかし医師会内部の人材と外部業者を適宜利用したり、目的によってはイントラネットまで構築しなくても、インタ−ネットMLやインタ−ネットホ−ムペ−ジの会員専用ペ−ジなどで代用することも可能であり、選択の幅は広いと思われる。今後イントラネット、インタ−ネットによる医師会情報ネットワ−クの構築にあたっては、医師会内部の人材、予算等を考慮した上で、各医師会の目的や実情に合ったシステムの構築が望ましいと思われる。
いずれにしてもこのようなアンケ−ト調査は今回が初めての試みであり、今後も継続して(できれば今後もっと詳細に)、調査したいと考えている。
【結論】
全国の医師会情報ネットワ−クの構築状況についてhimedaruma ML等によるアンケ−ト調査を実施し、以下の結果を得た。
1.イントラネットあるいはMLで医師会情報ネットワ−クを構築している医師会は計 50医師会で、加入者総数は6095名であった。
2.イントラネットを構築している地区のその平均の普及率は33.9%であり、イントラネットの構築費用は、会員や職員など内部の人間による場合と業者による場合ではかなり差があると考えられた。
4.このイントラネットの構築により多くのメリットが得られるが、一方で費用や管理者への負担が少なくないなどの問題もある。
5.今回のアンケ−トの結果も考慮した上で、各医師会の目的や実情にあった情報ネットワ−クの構築が望ましいと思われた。
【参考文献】
[1]河合直樹、越野陽介、飯沼順平、岩砂三平、村下弘晃:岐阜市医師会情報システムの構築.医療とコンピュ−タ10(No.3):14-19,1999
[2]岡本克実:高崎市医師会における情報ネットワークの構築について.医療とコンピュータ10(No.3):8-13,1999
[3]秋山昌範:愛媛県医師会のホームページ.日本医師会雑誌118 (1):72-77, 1997
[4]秋山昌範、神野健二、森脇昭介、村上郁夫:愛媛県医師会におけるセキュリティを保持した地域医療ネットワーク.第16回医療情報学連合大会論文集:520−521,1996
[5]秋山昌範:電子カルテと地域医療:データの共有が医療を変える、電子カルテが医療を変える、p119-137、日経BP社、東京、1998
[6]高橋徳:医師会のホームページの現状.医療とコンピュータ8(No.1):13-17,1997
[7]岡本克実:地域医療とインターネット.新医療9:74-78,1996
[8]山崎嘉久、河合直樹、石川裕、岩砂和雄、田中浩、桑原英明、中島昌俊:岐阜市とその周辺地域における今シ−ズンのインフルエンザ様疾患の解析.イントラネット、インタ−ネット等の情報ネットワ−クの意義.日本医事新報3918号:33-38,1999
[9]河合直樹、飯沼順平、岩砂三平、杉山恵一、平野高弘、河田智男、柴崎享、徐知行、山内一信:心電図デ−タファイルの遠隔医療への応用.画像ファイルと比較して.医療とコンピュ−タ10(No.5):79-84,1999