●しゃっくり(吃逆)の文化史
★ヒポクラテス:病気の徴候である場合もあるとして、症例報告で観察。
★ケルスス:繰り返し長く持続する吃逆は肝炎の特徴。くしゃみをすれば止まる吃逆は生理的なもの。
★プラトン:饗宴(シャンポシオン)の中で、吃逆を止める方法として、息を殺していること、水でうがいをすること、くしゃみをすることをあげている。
★日本のしゃっくりを止めるまじない:
1.鼻をつまんで水または米飯を飲み込む。
2.箸を頭上に逆さに立てる。
3.10から1まで逆に一気に数える。
4.不意に驚かす。
5.水を満たした茶碗に橋を十文字に渡し、各区画から順に水を飲む。
6.手掌に〈柿〉の字を書いてこれを飲むまねをする。
★江戸末期の育児書(撫育草ソダテグサ):
1.柿のへたを煎じて飲む。
2.トウガラシの粉をうどん粉に丸く包んで飲む。
★(正法眼蔵随聞記):病気は気の持ちようだから、しゃっくりをしている人につらいことを言えば、言い訳をしようと本気になるのに紛れて止まる。
★中国:巨闕(コケツ)、中浣(チュウカン)、翳風(エイフウ)、章門(ショウモン)、足三里などのつぼに鍼または灸を用いると止まる。
★ギネスブック1995年:米国アイオワ州アンソンのチャールズ・オスボーンさんは1922年にしゃっくりが始まり、1992年2月まで
70年間しゃっくりが止まらなかった。治療法は見つからなかったが、2度結婚して、8人の子供をもうけた。
★鹿児島大学納教授:持続性吃逆32例の調査
男27,女5で圧倒的に男性が多い。
1年以上持続した例は10例。ワレンブルグ症候群などの延髄疾患7例、中大脳動脈の梗塞5例、食道癌1例。
これらの疾患のすべての初発症状は吃逆であった。
●吃逆の原因
(1)中枢性:脳炎、脳出血、脳腫瘍など
(2)中毒性:糖尿病性昏睡、尿毒症、アルコール中毒、細菌感染など
(3)神経性・心因性:ヒステリー、神経衰弱
(4)腹部の疾患:急性腹膜炎、膵臓・胆嚢の炎症、胃の疾患
(5)胸部の疾患:肺・胸膜の疾患、心膜疾患、縦隔洞の疾患
(6)刺激性:横隔膜の疾患、胃拡張、イレウス、鼓腸
(7)呼吸の異常停止時:生理的に、食物の気管内誤飲、驚愕した時など
●吃逆の治療
ほとんどが一時的なもので治療を必要としないが、激しい吃逆が続くと談話や食事摂取が不可能となり、
胸腹諸筋の痛みが加わって体力が消耗し、長期間続くときは生命の危険さえ生じる。まれに器質的疾患によって
起こるものがあり、頻繁に起こりしかも長期続くものでは、原因に応じた治療が必要となる。
★民間療法の応用:安全だが確実性はない。
1.飲む側と反対側のコップの縁に口を当てて飲むなど上述の日本式おまじない。
2.氷水の飲用。 グラニュー糖(茶匙山盛り2杯)の服用。 リキュール(グラス2杯)の飲用。
3.息こらえ(深い深呼吸後)。
4.鼻をこよりでくすぐってくしゃみを誘発させる。
5.柿のへた=柿のへた10枚くらいにコップ3杯の水を加え、弱火で半量になるまで煮詰め、
これを30分から1時間ごとにしゃっくりが止まるまで少しずつ分けて飲む(*伊藤亨Drより紹介)。
6.スプーンや鍵などの冷たいものを首筋から背部にかけてあてるか、項部から背中に向けて落とす(頚部伸展を生じて作用する)。
7.リブリージング=紙袋を利用して呼気を再び吸う(炭酸ガスを上昇させる)。
★医学的処置:
(1)吸気後の呼吸停止。
(2)咽頭刺激;
1.舌圧子による圧迫。
2.綿棒による方法=綿棒に大きめの綿球を作り綿球の表面を少しふわふわになるようにして綿棒で口蓋垂を横に、
すっと往復してなぜる(*畑佐邦男Drより紹介)。
3.咽頭へのキシロカインスプレー処置(*河合潔Drより紹介)。
4.鼻孔から咽頭に向けてチューブを挿入し口蓋垂の高さの咽頭部を上下にこする。
(3)迷走神経、横隔膜神経に対して;
1.眼球圧迫。
2.頸動脈洞のマッサージ。
3.横隔膜神経圧迫=胸鎖乳嘴筋の中央外縁の所を、拇指で脊柱に向かって1〜2分圧迫する。呼吸を出来るだけ長く停止させると効果が上がる。
(4)吸入法;
1.アンモニア、エーテル、からし油などで上気道を刺激しくしゃみをさせる。
2.炭酸ガスと酸素との混合ガスを吸入=炭酸ガスは呼吸中枢を刺激して横隔膜の運動を調整する。
(5)胃の膨満を解除;
1.胃洗浄=急性胃拡張、幽門狭窄、空気嚥下症などによる吃逆の場合に有効。
2.重曹のかたまりを飲み、胃を急激に膨らませ、またげっぷ発生により収縮させることにより横隔膜の刺激をとる方法。
胃X線検査に用いる発砲錠でもよい。
3.経鼻的に胃にチューブを挿入。
(6)神経ブロック;
横隔膜神経ブロック(C3〜5)や胸髄神経領域での持続硬膜外ブロック(*河合直樹Drより紹介)。
(7)横隔膜神経切除;
頑固な吃逆に対して施行。不成功に終わる例もある。
★薬物療法
(1)注射:ビタカンファー静注、クロールプロマジン、プリンペラン、ノバミン筋注(*河合直樹Drより紹介)。
頑固な場合には、オピアトなどの麻薬も用いられる。
(2)内服薬:
1.鎮静剤:フェノバルビタール、臭化ナトリウム、バルビタールなど。
2.鎮痛剤:塩酸パパベリンなど
3.自律神経遮断剤:トロピン、ブスコパンなど。
4.キニーゼ剤:キニジンなど。
5.筋弛緩薬:マイアネシンなど。
6.亜硝酸アミル吸入。
7.クロールプロマジン:コントミン、ウインタミン、プリンペランなど。
8.精神安定剤
9.胃の膨満の解除:抗鼓腸薬(マーロックスなど)、メトクロプラミド(プロメチン)またはドンペリドン(ナウゼリン)
10.ランドセン、バクロフェン(*田辺祐介Drより紹介)。
(3)漢方薬:
芍薬甘草湯、茯苓飲、丁香柿蔕湯(柿蔕カキノヘタ、生姜ショウガ、丁香チョウジなどを主成分とする処方)。
●最後に
何をやっても無効であった90才の老人の吃逆にクロールプロマジンの内服が有効
でした。
(文責 平野 高弘)