成人T細胞白血病という病気は、ウイルス感染によってひきおこされる白血病
として世界で初めて日本で解明された白血病です。
日本では沖縄から九州、四国南部、紀伊半島にかけて多くみられます。ウイ
ルスの名前はHTLV−Tといって、日本以外には、カリブ海諸島や西アフリカ
などでも発見されていますが、なぜこのような限られた分布をしているのかは
不明です。
沖縄、九州地方ではこのウイルスのキャリア(ウイルスを持っている人)が人
口の3〜5%を占めます。しかしキャリアから実際に発病する人は非常に少
なく、男性では、年間、キャリア1,000人に1人、女性では2,000人に1人発
病するとされています。
しかし、発病すると非常に治りにくい白血病です。
この白血病は病態によって、
1)くすぶり型 2)慢性型 3)急性型 4)リンパ腫型 の4つに分けら
れます。
このうち、くすぶり型だけは比較的経過が良く、半数以上が5年以上生存しま
すが、他の三つの型は2〜3年以内に死亡すること多いのです。しかし、くす
ぶり型は全体の僅か5%くらいを占めるだけなので、ほとんどの人は発病すると
数年以内に死亡します。
成人T細胞白血病は、名前のようにT細胞(Tリンパ球)にウイルスが感染
して起こります。この感染したTリンパ球を含む体液によって人から人にうつ
ります。最も多いのが母乳を通じて母から子への感染です。母乳中には多くのT
リンパ球が含まれるからです。したがって妊婦の検査でHTLV−T抗体が陽性
であれば人工栄養が勧められます。性交によっても感染しますが、この場合
は男性→女性のみでその逆はないとされています。
感染してから発病するまでの潜伏期間が30〜70年と非常に長いのが特徴です。
したがって乳児期に母乳から感染したとしても、発病するのはかなり年をとっ
てからです。患者年令の中央値は57才で、30才未満の発病はきわめてまれで
す。
治療は、くすぶり型は原則として無治療ですが、最近はインターフェロンαも
使われます。くすぶり型以外に対しては白血病あるいは悪性リンパ腫に準じた
化学療法が行なわれますが、効果は良くありません。症例によっては骨髄移植
が行われます。
非常に治りにくい白血病ですが、他の白血病と違って、原因と感染経路が解明
された唯一の白血病です。したがってきちんと予防することにより、将来は絶
滅が可能な病気です。
この病気の原因ウイルス(HTLV−T)はレトロウイルスと言われ、エイズの
原因ウイルスであるHIVと同じ種類のウイルスです。それぞれのウイルスは共
通の祖先から分かれたものであることが分かっています。 いずれもCD4(細
胞の表面マーカーと言われるもの)陽性のTリンパ球に感染します。このリンパ球
はヘルパーT細胞といい、身体の免疫機構のもっとも主要な中心的役割をする細胞
です。
エイズウイルス(HIV)は感染することにより、Tリンパ球を破壊し、HTLV
−TはTリンパ球を腫瘍化してその機能を失わせます。したがっていずれの
病気も、主要な症状として免疫不全症が現れます。
エイズも成人T細胞白血病と同じく、原因ウイルスと感染経路が解明されてい
ます。主な感染経路は、性交感染、母児間感染、血液感染です。唾液や涙、
尿等からはほとんど感染しません。無症状の期間は成人T細胞白血病より短
く、5〜15年ですが、最近は治療法の進歩により、この無病期間がかなり長くな
ってきています。しかし一旦発病すれば、主に免疫不全による感染症や腫瘍の
ために死亡します。
エイズは、その原因、感染経路が解明されているにもかかわらず、今なお感染
者は増えつづけており、サハラ砂漠以南のアフリカ(感染者の約7割を占める)
や、南アジア、東南アジア(約2割)を中心に、その数は世界中で5,000万人
にもおよび、現在までの死亡者は1,600万人以上とされています。 日本での
感染者数は約5,000人で、そのうちの約4割が血液製剤を通じて感染を受けた
血友病患者であることは皆さんご承知の通りです。