3.血液の病気

(1) 貧血

 血液病の中で一番身近な病気は貧血です。貧血とは血液中の赤血球の数や、ヘモグロ ビンの量が少なくなった状態で、いわば血の赤みが薄くなった状態です。 一般に貧血を起こして倒れたとか、今日は貧血気味だとか言いますが、良く聞くと、立 ちくらみがするとか、頭がぼんやりすることを言っているようです。こういういわゆる 貧血気味と言う症状は脳貧血と言って、貧血とは直接関係ありません。 脳貧血は脳へ行 く血液の調節がうまく行かなくなって出る症状で、低血圧とか自律神経の不安定な人、動 脈硬化の進んだ人などに多く見られます。
 もちろん貧血でもひどくなれば立ちくらみなどを起こしやすくなりますが、主な症状は、 疲れ易い、軽い運動でも動悸、息切れがひどい、時には頭痛、めまい、根気が続かないな どで、長引けば舌がひりひりする、食べ物がうまく飲み込めない、爪が薄く割れ易くなる などの症状も見られます。

 貧血の原因は大きく分けて四つ有ります。
 第一が、失血、つまり出血です。怪我とか 胃潰瘍で出血したり痔の出血が続いたりすると貧血になります。気をつけなければいけ ないのが、胃とか腸にがんがある場合、はっきり見えない微量の出血が続いて、貧血に気 づいた時にはすでにがんが進行してしまっているという事が有ります。また女性は生理 が有るために、男性より貧血になり易いのです。酸素の運び屋であるヘモグロビンの重 要な原料が鉄です。大体一日に男性では1mgの鉄が身体から自然に排泄されますが、女 性は1.5mgと、男性より5割も多く排泄されます。これが女性に貧血の多い主な理由で す。
 第二の原因は材料不足です。ヘモグロビンはヘムとグロビンという蛋白質で出来てい ます。ヘムは鉄とプロトポルフィリンと言う蛋白質とで出来、それにグロビンがくっつ いてヘモグロビンが出来ます。衰弱あるいは炎症が続くと、蛋白不足になって貧血にも なりますが、圧倒的に多いのが鉄欠乏による鉄欠乏性貧血です。また、鉄以外にもビタ ミンB12,とか葉酸、胃で作られる内因子などと言う微量物質が不足しても悪性貧血などと 呼ばれる貧血になりますが、これらは原因が分かれば原料の補給だけで非常に治り易く、 今では全く悪性貧血と言うのは当たりません。
 第三の原因は、造血障害です。材料がたっぷり有っても血を作る能力が欠けている、つ まり製造機械の不調です。一般に多いのは再生不良性貧血、これは赤血球だけでなく、 白血球も血小板も少なくなりますので、貧血以外にも、熱を出し易い、出血が止まりにく いなどの症状が見られる事が多いのです。
 第四は、血管内で赤血球が壊れてしまう。つまり溶血性貧血です。これには先天的 の溶血性貧血と後天的のものと2種類有り、それぞれにまたいろいろな種類が有ります。  後天性の溶血性貧血の多くは、自己免疫と言う機序で起こります。最近では非常に多く の病気が自己免疫によって発症する事が分かってきました。上述の再生不良性貧血、悪性 貧血でも、その多くは自己免疫機序によるものです。

(2)鉄欠乏貧血

 若い女性の10人に一人が鉄欠乏性貧血と言われています。食べ物から吸収される鉄の 量は大体1日1mgです。男性はこれで鉄の排泄量と見合っていますが、女性は排泄量 が多いためにすぐ鉄欠乏になります。子宮筋腫や、慢性の消化管出血のある場合、また 胃腸が弱くて鉄の吸収の悪い場合も鉄欠乏性貧血になります。
 体内の鉄の量は男性で約3g、女性で2.5gです。その内の60%はヘモグロビンとして 血液に利用され、30%は貯蔵鉄として肝臓などに貯蔵されています。 鉄が不足すれば、ヘモグロビンの量が減ります。赤血球の数も減りますが、それ以上 にヘモグロビンの減りの方が著しいので、赤血球1個あたりのヘモグロビンの量が少なく なります。また赤血球の大きさも小さくなります。このような貧血を小球性低色素性貧 血といいます。
 この貧血の診断は一般的に行なわれる、赤血球数、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値 (前述)の検査で大体見当がつきますが、それに血清鉄の量と、鉄の運び屋であるトラン スフェリン、貯蔵鉄であるフェリチンの量を測れば確定出来ます。 しかし、鉄欠乏性貧血は診断がつけばそれでよしとは言えません。特にある程度年をと った人の場合は必ずその原因を調べなくてはいけません。胃腸のがんや潰瘍、ポリープ、 栄養障害、子宮筋腫などが見つかることがあります。
 治療は、出血などの原因さえなければ簡単です。鉄剤を1日50〜200mgくらい服用 します。2〜3ヶ月で回復しますが、貯蔵鉄をつくっておくために更に1ヶ月くらい余 分に飲むことが大切です。今の鉄剤は腸で溶けて吸収されるように作ってあるので、胃 が悪くなる事はあまりありません。またお茶で飲んでも問題がないとされています。 よく、貧血だから造血剤(増血剤?)を出してほしいと希望される患者さんがいます。 造血剤というのがどういう薬か良く分からないのですが、一般には鉄剤をさすのではない かと思います。(今は本当の造血薬、エリスロポエチンなどが病院では使われていますが)  しかし、貧血だからすぐ鉄剤というのはいけません。貧血によっては、血清鉄が減ってい ない、あるいはむしろ増えている場合もあり、そのような貧血に鉄剤を使うとよけい身体 を悪くする事があります。

(3)再生不良性貧血

 赤血球の材料は充分あっても、製造工程不備による貧血です。ここで簡単に 血球製造工程について説明します。
あらゆる血球は、ただ1種類の造血幹細胞(多能性幹細胞)が骨髄中で分裂、 分化することによって造られます。
多能性幹細胞は、先ず、
1)骨髄系幹細 胞と 2)リンパ系幹細胞 とに分化します。
  1)の骨髄系幹細胞は、さらにいくつかの分裂の過程を経て、最終的に、赤血 球、顆粒球、単球、血小板に成熟し、骨髄から血管内に出てきます。 2)のリンパ系幹細胞も骨髄中で分裂し、一部は、血中に出てから胸腺と言う 組織を通過してTリンパ球(T細胞)となり、もう一部は骨髄中でBリンパ球 (B細胞)にまで成熟します。Bリンパ球の一部は形質細胞という抗体を作 る細胞に変化します。
  さて、再生不良性貧血はこの造血機能の障害です。障害されるのは、骨髄系幹 細胞と、それが分化した赤芽球系、顆粒球単球系、および血小板のもとである 巨核球系の幹細胞です。この障害は造血過程のごく初期の段階で行われるた め、骨髄中の細胞数が非常に少なくなり、脂肪組織に置き換わってしまいます。 この状態を脂肪髄と言って、再生不良性貧血の特徴の一つです。
 この病気では赤血球ばかりでなく、白血球(顆粒球)も血小板も減ります。そ のため、貧血の症状の他に、細菌に対する抵抗力が弱くなり、熱を出し易く、 また非常に出血し易くなります。一方リンパ系の造血はあまり障害されないの で血中のリンパ球は減りません。症状は軽い人から重症の人までさまざまで す。大体年間3,000人から5,000人の患者がいるとされます。
 良く知られているようにこの貧血の一部は、放射線、薬剤などが原因で発症し ます。これらのうち、大量に使用すると必ず造血障害を起こす物質は、
1)放 射性物質 2)抗がん剤、抗白血病剤 3)ベンゼンおよびその誘導体です。
 ま た、時に障害を起こす物質としては、抗生物質(特にクロマイと呼ばれる抗生 物質。今は一般には使われていません。)、抗けいれん薬、鎮痛剤、抗甲状腺薬 などがあります。その他、ある種のウイルス性肝炎の後に生ずることもありま す。
 しかし、この病気の90%近くは特発性、つまり原因不明です。といっても現 在ではかなり病態の解明が進んできて、この病気の人の骨髄中の造血幹細胞の 増殖、分化を抑えているいろいろな原因物質(サイトカインと呼ばれる)が明 らかになりました。これらは主に患者のTリンパ球(T細胞)で造られます。 またT細胞自身も直接造血細胞を攻撃します。この様に、自分のリンパ球が 自分の組織を攻撃する(これは自分の組織を異物と誤認して排除しようとする 行動です)、これを自己免疫と言います。再生不良性貧血も自己免疫疾患の一 つであると考えられます。
 再生不良性貧血の治療には、もちろん鉄剤は無効です。軽い場合は治療を せずに経過を見るだけで良いこともあります。薬物治療としては、副腎皮質 ホルモン、蛋白同化ホルモン、また免疫抑制療法も行われます。  造血細胞の増殖をうながす物質(これもサイトカインです)もいろいろ見つ けられ、赤血球を増やすエリスロポエチン、顆粒球を増やすG−CSF、血小板 を増やすトロンボポエチンなどが使われることもあります。場合によっては 赤血球輸血、血小板輸血も必要です。重症例では、可能であれば骨髄移植が 第一選択となります。 この病気では顆粒球減少のために感染症(肺炎、敗血症など)がしばしば致 命的になります。また、出血もしやすく、これらの合併症の治療が非常に大切 です。

(4)骨髄異形成症候群(MDS)

 このややこしい名前の病気は、まだ名づけられてから十数年の新しい概念です。
  一般には貧血には分類されません。白血病に近い顆粒球系の病気とされます。 しかし、病因は再生不良性貧血と同様に、骨髄造血幹細胞の分化の異常です。 そのために造血細胞が、増殖の途中で自ら死んでしまいます(アポトージスと いいます)。ただ、ある程度増殖が進んでから異常が生じるために、再生不良 性貧血と違って、骨髄中の細胞数は正常かむしろ増加しています。しかし、 成熟して血中に出てくる血球は少なく、このような貧血を不応性貧血と言いま す。
 なぜ分化の異常により、細胞が死んでしまうのか、原因は再生不良性貧血と異 なり、多くの場合に染色体の異常が見つかっており、遺伝子異常が原因と考え られます。
 この病気ではほとんどの場合、血中の赤血球、白血球、血小板の3系統とも減 少します。しかし再生不良性貧血と違うのは、骨髄中に幼弱白血球(芽球) が増加することです。この増加の仕方、および異常の程度により、5段階に分け られます。芽球の増加ということは白血病の特徴でもあります。この病気 は、程度により白血病に近く、前白血病と呼ばれる段階から本当の白血病にな ってしまう場合もあります。
 50歳以上の男性に多く、貧血の症状の他に、出血傾向、易感染性、また脾臓 や肝臓が腫れることもあります。患者数は最近では再生不良性貧血よりむし ろ多いとされています。薬も効きにくく治療の困難な病気です。

(5)溶血性貧血

 せっかく出来た赤血球が壊れてしまう、つまり溶血によって生ずる貧血です。 この貧血には先天性(遺伝性)のものと後天性のものとが有り、頻度は大体半々 です。
 貧血の他に重要な症状は黄疸です。赤血球が壊れると、血中に溶け出た赤い 色素ヘモグロビンの成分であるポルフィリンが黄色い色素であるビリルビンに 変化します。これが黄疸のもとです。また、赤血球は主に脾臓で壊されるの で脾臓が腫れる、いわゆる脾腫がよく見られます。
 血中のビリルビンは、肝臓から胆汁として腸に排泄され、ウロビリノーゲンに なります。その一部は腸で吸収されて血中に戻り、腎臓から尿中ウロビリノー ゲンとして排泄されます。 また溶け出たヘモグロビンがあまり多いと直接尿 中に排泄されて、ヘモグロビン尿となり、尿の色が濃くなります。 胆汁中のビリルビンが濃いと胆石の原因になります。以前は胆石の多くはビリ ルビン結石でしたが、食生活の変化により、日本人の血中コレステロールの上 昇とともに、胆石もコレステロール結石が大幅に増加してきています。

1)先天性溶血性貧血
 先天性溶血性貧血の原因は、
@)赤血球の膜に異常が有るもの A)ヘモグロ ビンの構造に異常があるもの B)酵素の異常によるものの3つに分けられま す。
 この生まれつきの貧血のうちで、日本人では最も多く、全体の70%を占める のが、遺伝性球状赤血球症です。この貧血では遺伝的に、赤血球膜の蛋白に 異常があり、普通は、真ん中のへこんだ円盤状(ドーナツ様)の形をしている 赤血球が球状になります。そして赤血球の持つ変形能力が失われるために、 壊れやすく、脾臓でマクロファージに貪食されます。約8割に脾腫が見られ、 半数以上で胆石発作があります。常染色体優性遺伝という遺伝をしますが、 約3分の1の症例では家族歴が見つかっていません。
 この貧血に効く薬はなく、唯一の治療は脾臓摘出手術です。これにより、赤血 球の遺伝的な異常が無くなる訳ではありませんが、赤血球が壊されにくくなる ために、貧血が改善して殆ど正常の生活を送ることが出来ます。
 その他に遺伝性楕円赤血球症という貧血もあります。赤血球の75%以上が、 卵円形またはこん棒状の異常な形をしているので一目で分かります。これも 常染色体優性遺伝をしますが、遺伝性球状赤血球症に比べれば溶血の程度は軽 く、ひどい場合も摘脾によって治ります。
 A)のヘモグロビンの異常による溶血性貧血としては、鎌状赤血球性貧血があ ります。酸素不足状態になると赤血球が三日月状あるいは鎌状の奇怪な形にな るもので、アメリカやアフリカの黒人に多く見られます。また、地中海貧血 と呼ばれる貧血は、地中海沿岸から東南アジアにかけてよく見られ、まれに日 本でも見られます。これらの貧血はいずれも、ヘモグロビンを構成するアミ ノ酸のうち、たった1ヶ所が異なるために生ずる貧血です。一つの分子の異 常が原因で発症する病気ということで、分子病という名前が初めて用いられま した。
 B)赤血球には核とかミトコンドリアとかの細胞内構造が全く有りません。赤 血球の働きを維持するためには、解糖作用と言う化学反応によってのみそのエ ネルギーが供給されます。一連の解糖作用では多くの酵素が必要とされます が、その酵素の欠乏によっても赤血球の異常が生じ、溶血性貧血になります。 最も知られているのがG6PD(グルコース6燐酸脱水素酵素)欠乏症で、日 本人には少ないのですが、世界的に存在して、発症はほとんど男性です。こ の貧血は解熱剤やサルファ剤などの服用の後に急に悪くなることがあります。 摘脾手術は無効です。

2)後天性溶血性貧血
 大部分が自己免疫性溶血性貧血と呼ばれる貧血で、決して珍しい貧血ではあり ません。自己免疫性ですから、自分の赤血球に対する抗体(自己抗体といい ます)をみずから作り、それが赤血球を攻撃し、脾臓のマクロファージがその 赤血球を貪食して溶血させます。
 特発性といって原因不明な場合と、続発性といって他の病気にともなって生ず る場合とあります。原因となる病気には、癌とか、膠原病(エリテマトーデス など)、悪性リンパ腫などがあります。また、ペニシリン系の抗生物質、降圧 剤のメチルドーパ、精神安定剤、糖尿病の薬などの薬剤によって引き起こされ る場合もあります。
 治療には副腎皮質ホルモンが使われます。これが効かなかったり副作用で使 えない場合は他の免疫抑制剤を使います。ときには摘脾手術をすることもあ ります。
 自己免疫性溶血性貧血の中には、まれに低温のときだけ抗体が作用して溶血を おこす寒冷凝集素症、発作性寒冷血色素尿症と呼ばれるものがあります。小 学生に時々見られるマイコプラスマ肺炎、また伝染性単核球症などの病気のと きに、寒冷凝集素が一時的に上昇することがあり、時に溶血が生ずることもあ ります。治療にはやはり副腎皮質ホルモンが使われます。

(6)悪性貧血

 ビタミンB12の欠乏によって引き起こされる貧血です。
ビタミンB12は、 レバーをはじめ、肉、魚、貝などの動物性食品に多く含まれますが、野菜や果 物には含まれません。しかし必要量は微量なので、栄養不足によるビタミン B12欠乏症はまずありません。
ビタミンB12欠乏症はB12の吸収障害によっておこります。ビタミンB12 は胃液中の内因子という物質と結合して、B12内因子複合体が造られます。こ れが腸に行って吸収されるのです。悪性貧血の場合は、この胃壁で造られる 内因子に対する抗体が認められます。その抗体が内因子の働きを阻害するため、 B12内因子複合体が造られず、腸での吸収が出来なくなるのです。
自分の体内の物質に対する抗体が出来るということは、この病気もまた自己免 疫疾患であると考えられます。
 ビタミンB12はDNAの合成に必要なビタミンで、その欠乏は赤血球の親であ る赤芽球の増殖を低下させます。その結果、赤血球の数が減少します。しかし その一方ヘモグロビンの合成は障害されません。したがって、鉄欠乏性貧血 の場合と反対に、赤血球の減少の割にヘモグロビン量は減らないため、赤血球 一個あたりのヘモグロビン量が多く、高色素性、大球性貧血になります。
骨髄では巨大な赤芽球(巨赤芽球)が出現するのが特徴です。B12の他にも、 葉酸というビタミンの欠乏でも同様な貧血が見られ、これらをまとめて巨赤芽 球性貧血といいます。
高齢者に多く、症状は貧血の他に重要なのが神経症状です。手足のしびれ感、 筋力低下、知覚障害、ひどくなると、抑鬱状態、記憶減弱、排尿障害などをき たします。舌が赤くなってひりひり痛むとか、下痢、腹痛、また、手足の浮腫、 白髪化なども見られます。
 治療はビタミンB12の筋肉注射によります。これによりよく治ります。吸収障 害があるので、内服ではなく注射を行ないます。 昔はこの病気の原因も治療法も分からず、死に至ることも多かったので、悪性 貧血と名づけられました。現在では容易に治る貧血ですが、名前だけは昔のま ま使われています。
 ビタミンB12の吸収に必要な内因子は胃壁で造られるため、がんなどで、胃を 全部とってしまった後などにも、B12の吸収障害が起こります。しかしB12は 5年分くらい肝臓で貯蔵されていますので、症状が現れるのは5年くらいたって からです。
また葉酸欠乏性貧血は大酒のみで栄養の極端に偏っている人、あ る種のてんかんのくすりを長期間服用している人などにもみられることがあり ます。

(7)他の病気による貧血

 男性でも女性でも、中年以降で貧血が見つかったら先ずがんを疑います。
がん 細胞からはいろいろなサイトカインという物質が出て、造血機能を抑えたりし て貧血の原因になりますが、しかしこれはがんが随分進んでからのことが多い のです。しかし、胃とか腸の消化器のがんでは、比較的初期の時期でも微量 の出血が続いて、鉄欠乏性の貧血になることがよくあります。これを鉄剤など で治療していて、がんが手後れになってしまってはいけません。
 慢性腎炎、特に腎不全では例外なく貧血になります。赤血球系の幹細胞の増殖、 分化には、エリスロポエチン(これもサイトカイン)という物質が必要です。 このエリスロポエチンは腎臓で造られるのです。慢性腎不全、特に透析患者 の貧血の治療には、遺伝子組み替えエリスロポエチンが使われ、貧血が非常に 改善されています。
 肝硬変でも貧血になりますが、原因はいろいろです。肝機能が落ちると、ビタ ミンB12や葉酸の活性化が悪くなって、巨赤芽球性貧血が現れることがありま す。
  肝硬変ではよく門脈圧亢進症という状態になり、その結果、脾臓が腫れ、脾機 能亢進症になります。脾臓のマクロファージも増加するため、赤血球を貪食し て溶血性貧血になります。同時に白血球や血小板も貪食するため、3系統とも 減少する汎血球減少症になります。特に血小板の減少は肝硬変の程度の目安に なります。血小板が5万程度以下になると出血しやすくなります。 また、いろいろな凝固因子(血液を固まらせるのに必要な物質)は肝臓で造ら れますので、肝障害で、凝固因子の合成が低下すれば出血の原因になります。
 慢性関節リウマチは女性に多く、約半数の患者さんに貧血が見られます。この 病気も自己免疫疾患で、T細胞が赤芽球系幹細胞の増殖を抑えます。 また、 いろいろなサイトカインの産生が高まっていて、造血作用を抑制したり、腎の エリスロポエチン産生作用を抑制したりします。この病気では網内系という 組織の機能亢進があり、鉄を取り込んで利用しにくくするので、それも貧血の 原因の一つです。
 その他にも、エリテマトーデスなどの膠原病、慢性のウイルスや細菌感染症、 甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、また、アルコールの飲みすぎなどでも貧 血になります。

前のペ−ジに戻る

メニュー画面に戻る